執筆: 西山 勇来(柔道整復師・ゆうき整骨院院長)最終更新: 2026年8月4日
ACL損傷とは 前十字靭帯(ACL)は、膝の安定性を支える重要な靭帯です。断裂すると膝くずれ(giving way)や不安定感が出やすく、スポーツ復帰には再建術と計画的なリハビリが必要になることが多いケガです。
医療機関の受診を優先していただきたいサイン 次のような場合は、施術よりも医療機関(整形外科)の受診を優先してください 受傷時に「ブツッ」という音や感覚があり、その後に急速に膝が腫れた 膝に力が入らず支えられない、崩れる感じ(膝くずれ)が続く 膝が完全に伸びない・曲がらない、途中で引っかかって動かない(ロッキング) 強い腫れ・熱感・発赤が引かない、発熱を伴う 膝から下のしびれや感覚の低下、足先の色が悪い 体重をかけて歩くことがまったくできない 術後に創部の痛み・腫れ・熱感が強くなった、または急に膝が動かしにくくなった 超音波エコーでできること・できないこと 超音波エコーは関節周囲の観察を補助するもので、ACL再建靱帯そのものの状態や手術適応を確定する検査ではありません。ACLは膝関節の深部にあるため体表からの超音波では十分に描出できず、損傷の有無・再建靱帯の状態・手術が必要かどうかの判断は、医師の診察とMRIなどの画像検査に基づいて行われます。
当院ではエコーを、腫れの程度や膝蓋腱・周囲の腱や筋など「観察できる範囲」の変化を経過に沿って確認する目的で用いています。
当院のアプローチ 手術前のプレハビリテーション(筋力・可動域づくり)から、術後の段階的なリハビリ、競技復帰に向けたトレーニングまで一貫して対応します。
超音波エコーで状態を確認しながら、医療機関と連携して、その時期に必要なメニューをご提案します。
当院で確認する評価項目 初回および経過の節目で、次のような項目を確認しています。評価の内容は、その時期に必要な運動療法の組み立てとご説明に用います。
膝の可動域(特に完全伸展の左右差)と膝蓋骨の動き 大腿四頭筋・ハムストリングスの筋力と左右差 腫れ(関節水腫)の程度と、運動後の変化 片脚立ち・スクワット・着地時の膝の向き(膝が内に入っていないか) ホップテストなど、片脚での動作における左右差 股関節・体幹・足部の可動性と筋力(膝への負担に影響する要素) 方向転換・減速・ジャンプ着地など競技特有の動作の質 痛みや、膝に体重を預けることへの不安感の変化 整骨院で対応する範囲 当院は柔道整復師による施術所(整骨院・接骨院)であり、診断・手術・投薬・画像診断は行いません。診断や治療方針の決定は医療機関が行い、当院はその方針の範囲内で運動療法を担当します。
当院で対応すること
主治医の方針の範囲内での運動療法・徒手療法 手術前のコンディショニング(可動域・筋力の準備) 術後の回復段階に応じた運動療法(主治医の許可・指示の範囲内) 動作の評価とフォーム改善、再受傷リスクの軽減を目的としたトレーニング 保存療法を選択された方の筋力・動作トレーニング 当院では行わないこと
損傷の診断や重症度の確定、手術適応の判断 レントゲン・MRI・CT などの画像検査 投薬、装具の処方 段階的なリハビリの進め方 ACL再建術後のリハビリは、一律の期間ではなく、達成できている機能を確認しながら段階的に進める「基準に基づく」方針が国際的なガイドラインで示されています(文献1)。回復の経過には個人差があり、下記はあくまで一般的な段階の目安です。実際の進め方は、主治医の方針とその時点の状態に応じて調整します。
STEP 1|術前・急性期:腫れと痛みの管理、可動域の確保 腫れと痛みの状態をみながら、膝を完全に伸ばせる状態づくりと、大腿四頭筋が働く感覚の再学習から始めます。手術を予定している場合、この時期の準備が術後の経過に影響するとされています。 STEP 2|術後早期:可動域と基本的な筋活動の回復 主治医の指示による荷重・装具の条件を守りながら、可動域の回復と筋の再活性化を進めます。無理に範囲を広げず、腫れや痛みの反応を確認しながら調整します。 STEP 3|筋力づくりと基本動作の再獲得 両脚から片脚へと段階を進め、スクワットやランジなどの基本動作を安定して行える状態を目指します。股関節・体幹の使い方も並行して整えます。 STEP 4|ランニング・ジャンプ動作の再開 筋力や動作の質が一定の水準に達したことを確認したうえで、直線的なランニングから開始し、ジャンプと着地の質を確認しながら量を増やしていきます。 STEP 5|競技復帰に向けた専門的トレーニング 方向転換・減速・対人など競技特有の動作を段階的に加え、疲労した状態でも動作の質が保てるかを確認します。 STEP 6|復帰後のフォローアップ 復帰後も定期的に筋力・動作の左右差を確認し、再受傷リスクの軽減を目指して継続的に調整します。 競技復帰の判断 復帰は「期間」だけで判断しません。復帰の可否を最終的に判断するのは主治医ですが、当院では筋力の左右差、ジャンプ・着地動作の質、方向転換の安定性などを評価し、主治医の判断材料となる情報を共有しながら、安全な復帰時期を一緒に見極めていきます。
一般に、術後の期間が短いうちの復帰では再受傷率が高いこと、筋力や動作の左右差が一定の水準まで回復していることが再受傷リスクの低下と関連することが報告されています(文献2・3)。当院では次のような項目を確認しています。
膝の可動域が反対側と同等まで回復しているか 大腿四頭筋・ハムストリングス筋力の左右差が小さくなっているか ホップテストなど片脚での動作に大きな左右差がないか ジャンプ着地や方向転換で膝が内側に入っていないか 運動後に痛みや腫れが強く残らないか 膝に体重を預けることへの不安感が軽減しているか これらはあくまで確認のための項目であり、満たせば再受傷しないことを保証するものではありません。
医療機関との連携 当院では、主治医の診断内容・術式・リハビリ方針を確認したうえで施術を進めます。ご希望があれば、当院で確認した可動域・筋力・動作の評価内容を書面でお渡ししますので、次回の診察時にお持ちいただけます。
経過中に痛みや腫れの増悪、可動域の低下など気になる変化があった場合は、施術を継続せず医療機関への受診をご案内します。整形外科に通院しながら、診察は医療機関・運動療法は当院という形で並行して進めることもできます。
参考文献 Kotsifaki R, Korakakis V, King E, ほか. Aspetar clinical practice guideline on rehabilitation after anterior cruciate ligament reconstruction . Br J Sports Med. 2023;57(9):500-514.(PMCで全文を読む(無料) ) Grindem H, Snyder-Mackler L, Moksnes H, ほか. Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study . Br J Sports Med. 2016;50(13):804-808. van Melick N, van Cingel REH, Brooijmans F, ほか. Evidence-based clinical practice update: practice guidelines for anterior cruciate ligament rehabilitation based on a systematic review and multidisciplinary consensus. Br J Sports Med. 2016;50(24):1506-1515. 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会 編『前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン 2019(改訂第3版)』南江堂, 2019. こんな方におすすめ ACLを断裂し、手術を予定している/術後の方 術後のリハビリ先を探している スポーツへの競技復帰を目指している 再断裂を防ぎ、長く競技を続けたい本ページは一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではなく、医師の診断に代わるものではありません。症状の感じ方や経過には個人差があり、記載した内容や期間の目安がすべての方に当てはまるわけではありません。気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。なお当院は柔道整復師による施術所(整骨院・接骨院)であり、医療機関(病院・診療所)ではありません。